「昇進して年収は上がったのに、手取りがまったく増えた気がしない」——年収1,000万円を超えたサラリーマンの方(公務員の方も含みます)なら、誰もが一度は感じたことがあるのではないでしょうか。
結論から申し上げると、その原因は日本の累進課税制度にあります。課税所得900万円を超えたあなたの給与の「増えた部分」には、所得税と住民税を合わせて約43.7%という高い税率がかかっているのです。そしてこの高い税率を合法的に、かつ大きく軽減できる数少ない手段が、不動産投資の会計上の赤字を給与所得と相殺する「損益通算」という仕組みです。
この記事では、はじめて不動産投資を検討する方にもわかりやすく、損益通算で税負担が軽くなる仕組みと具体的なシミュレーション、そして「節税だけを目的にすると失敗する」理由までを、データに基づいて徹底解説します。ぜひ最後までご覧ください。
なぜ手取りが増えないのか?年収1,000万円超の「限界税率」を知る
結論から申し上げると、あなたの税負担の重さを決めているのは「平均の税率」ではなく「限界税率」(追加で稼いだ1万円にかかる税率)です。
日本の所得税は課税所得が増えるほど税率が上がる超過累進税率を採用しており、課税所得900万円を超えた部分には所得税33%、1,800万円を超えた部分には40%が適用されます。ここに住民税(原則一律10%)と復興特別所得税(所得税額の2.1%)が加わるため、増えた給与に対する実質的な税率は下の表のようになります。
課税所得別・限界税率の早見表
| 課税所得金額 | 所得税率 | 住民税率 | 限界税率(復興特別所得税含む・概算) |
|---|---|---|---|
| 695万円〜900万円未満 | 23% | 10% | 約33.5% |
| 900万円〜1,800万円未満 | 33% | 10% | 約43.7% |
| 1,800万円〜4,000万円未満 | 40% | 10% | 約50.8% |
※出典元:国税庁「No.2260 所得税の税率」をもとに作成。税率は概算であり、実際の税額は個々の状況により異なります。
目安として、年収1,200万〜1,900万円前後の方は所得控除の状況にもよりますが課税所得900万円台に乗ることが多く、年収2,000万円を超えると課税所得1,800万円超となるケースが一般的です(あくまで概算のため、源泉徴収票の「給与所得控除後の金額」から所得控除を差し引いてご確認ください)。
つまり、課税所得900万円超のあなたが追加で100万円稼いでも、手元に残るのは約56万円という事です。逆に言えば、課税所得を100万円圧縮できれば約43.7万円の税負担が軽くなる——限界税率が高い人ほど「所得の圧縮」の価値が大きいのです。この点は『年収1,000万円のあなたに不動産投資を推奨する3つの理由』の記事でもご紹介していますので、こちらをご覧ください。

一般的な節税策の効果と「頭打ち」の限界
「節税」と聞いてまず思い浮かぶのは、iDeCo(個人型確定拠出年金)やふるさと納税、住宅ローン控除といった制度でしょう。これらはすべて有効な制度であり、当社も併用をおすすめしています。
しかし、高所得サラリーマンには構造的な限界があります。
- 給与所得控除の頭打ち:給与所得者の「みなし経費」である給与所得控除は、年収850万円超で上限195万円に固定されます。年収が1,000万円でも2,000万円でも控除額は同じ、つまり収入が増えるほど「課税される割合」が高くなるのです。
- 拠出型の節税は上限が小さい:iDeCoやふるさと納税は掛金・寄附額に上限があり、課税所得を数十万円単位で圧縮するのが精一杯です。限界税率43.7%の方にとって効果はあるものの、税負担の「桁」を変える力はありません。
- 経費計上の余地がない:個人事業主と異なり、サラリーマンは業務上の支出を経費として自由に計上できません。
誤解のないように補足すると、当社は「iDeCoやふるさと納税をやめて不動産投資を」と言いたいのではありません。実務的な優先順位はむしろ逆で、次の順番で考えるのが自然です。
- まず、手間なく確実に効くふるさと納税・iDeCoの枠を使い切る
- そのうえで、それでもなお残る大きな税負担(課税所得900万円超の部分)に対して、損益通算のような「桁の違う」手段を検討する

なぜならば、これらの制度はいずれも「所得控除・税額控除の枠内」での節税だからです。枠そのものを大きく動かせる手段——それが次章で解説する、不動産所得を使った損益通算です。サラリーマンの節税全般については『サラリーマンが節税に関してぶつかる13の疑問とその答え』の記事でもご紹介していますので、こちらをご覧ください。
損益通算とは?不動産の「会計上の赤字」が給与の税金を取り戻す仕組み
損益通算(赤字の所得を黒字の所得と相殺して課税所得を減らす制度)とは、不動産所得などに生じた損失を、同じ年の給与所得と合算できる所得税法上の仕組みです。国税庁のタックスアンサー「No.2250 損益通算」でも、不動産所得の損失が給与所得と通算できることが明記されています。
ここで重要なのは、「会計上の赤字」と「実際のお金の流れ(キャッシュフロー)」は別物だという点です。
そのカギを握るのが減価償却費(建物の取得費用を耐用年数にわたって分割して経費計上する仕組み)です。減価償却費には、次の特徴があります。
- 建物部分の取得価額を、法定耐用年数に応じて毎年経費にできる(土地は対象外)
- 実際にお金が出ていかないのに、帳簿上は経費になる
- 中古物件は「簡便法」により耐用年数を短く再計算でき、年あたりの償却費が大きくなる
たとえば築15年の鉄筋コンクリート造(法定耐用年数47年)のマンションなら、簡便法による耐用年数は(47−15)+15×20%=35年となります(1年未満の端数は切り捨て。国税庁「No.5404 中古資産の耐用年数」)。
➡つまり、家賃収入がきちんと入って手元のお金が増えていても、減価償却費や購入初年度の諸費用(登記費用・不動産取得税など)によって帳簿上は赤字になる年が生まれ、その赤字が給与にかかった税金を取り戻してくれる——これが損益通算を使った節税の正体なのです。仕組みの基本は『不動産の赤字を他の所得と相殺する損益通算とは?』の記事でもご紹介していますので、こちらをご覧ください。

【シミュレーション】会計上100万円の赤字で税負担はいくら軽くなる?
それでは、具体的な数字で見ていきましょう。年収1,200万円・課税所得900万円(概算)のサラリーマンが、都市部の中古区分マンションを購入したケースを想定します。
物件・収支の前提条件(概算)
| 項目 | 前提 |
|---|---|
| 物件価格 | 5,000万円(建物2,000万円・土地3,000万円) |
| 構造・築年数 | 鉄筋コンクリート造・築15年(簡便法耐用年数35年・償却率0.029) |
| 年間家賃収入 | 360万円 |
| 年間諸経費(管理費・支払利息等) | 120万円 |
| 年間減価償却費 | 2,000万円×0.029=58万円 |
この物件の通常年の姿は、次のとおりです。
- 手元のキャッシュフロー:360万円−120万円=+240万円(黒字)
- 税務上の不動産所得:360万円−(120万円+58万円)=+182万円
ちなみに、不動産投資で会計上の赤字が出やすいのは、特に購入初年度です。理由は、物件価格とは別に発生する諸費用——登記関連の費用、不動産取得税、ローン事務手数料、火災保険料など——の多くを、その年の必要経費として計上できるからです。2年目以降は減価償却費と利息が経費の中心となり、赤字幅は小さくなっていくのが一般的な経過です。
そのうえで、購入初年度の諸費用やリフォーム・修繕などで必要経費が膨らみ、会計上100万円の赤字が出た年を考えます。損益通算により課税所得は900万円→800万円に圧縮され、税負担は次のように軽くなります。
損益通算による節税効果(課税所得900万円・限界税率約43.7%の場合)
| 内訳 | 金額(概算) |
|---|---|
| 所得税の還付(100万円×33%×1.021) | 約33.7万円 |
| 翌年の住民税の減額(100万円×10%) | 約10.0万円 |
| トータルの税負担軽減 | 約43.7万円(43.69万円) |
※数値はすべて概算です。実際の税額計算は個々の状況により異なるため、税理士等の専門家にご確認ください。
さらに注目すべきは、同じ100万円の赤字でも、限界税率によって節税額が変わるという点です。課税所得1,800万円超(年収2,000万円超の目安)の方なら、同じ計算で約50.8万円。限界税率が高い人ほど、損益通算は「割のいい」仕組みになるのです。

節税だけを目的にするな!「空室にならない物件」をデータで選べ
ここまで損益通算のメリットを解説してきましたが、あえて申し上げます。節税「だけ」を目的にした不動産投資は、おすすめしません。
なぜならば、節税効果はあくまで不動産投資の副次的なメリットであり、本体は「賃貸経営」だからです。空室が続けば家賃収入が途絶え、節税額をはるかに上回る損失が出ます。「節税になるから」と需要のないエリアの物件を買ってしまうことが、不動産投資の典型的な失敗パターンという事です。
では、空室になりにくい物件はどう選ぶのか。答えは「借り手が増え続けるエリア」をデータで確認することです。
都市部の賃貸需要の主役は単身世帯(単独世帯)です。東京都の「東京都世帯数の予測」によれば、2020年から2040年にかけて単独世帯は、中央区で+60.63%、港区で+23.46%、品川区で+18.35%と都心部で大きく増え、葛飾区(+13.59%)や大田区(+11.34%)でも増加が続く見通しです。
この流れは、東京都内にとどまりません。川崎市の公式推計でも、単独世帯は2020年の340,800世帯から2040年には365,000世帯へと+7.1%増える見通しです。また、横浜市の「横浜市将来人口推計」でも、家族類型別では単独世帯が最も多いとされています。単身の借り手が増え続けるのは、東京から神奈川へと広がる都市部に共通する構造なのです。
東京・川崎の主要エリアの単独世帯増減率(2020年→2040年)
| エリア | 単独世帯の増減率 |
|---|---|
| 中央区 | +60.63% |
| 港区 | +23.46% |
| 品川区 | +18.35% |
| 葛飾区 | +13.59% |
| 大田区 | +11.34% |
| 川崎市 | +7.1% |
※出典元:東京都「東京都世帯数の予測(推計人口資料第75号)」第2-1表、川崎市「川崎市総合計画改定に向けた将来人口推計(令和7年5月)」図表3-1をもとに作成。
単身世帯が増え続ける都市部の物件は、家賃水準・入居率が安定しやすく、「節税しながら空室リスクを抑える」という損益通算の大前提を支えてくれます。都内の資産価値については『なぜ都内の不動産が高騰しているのか?東京都23区における5年間の坪単価推移をまとめてみた』の記事でもご紹介していますので、こちらをご覧ください。

失敗しないために押さえよ!損益通算の4つの注意点
損益通算には、知らないと損をする落とし穴もあります。始める前に、次の4点を必ず押さえてください。
-
土地部分の借入金利子は通算できない
不動産所得の赤字のうち、土地の取得に要した借入金の利子に相当する部分は、損益通算の対象外です。物件価格の土地・建物の内訳(按分)によって節税効果が変わるため、購入前の確認が欠かせません。 -
「ずっと赤字の物件」は本末転倒
損益通算の赤字は、減価償却費や初年度諸費用による「会計上の赤字」であるべきです。家賃収入より支出が多い「実際の赤字」が続く物件は、節税額以上にあなたの資産を減らします。 -
節税効果は永続しない
減価償却費は耐用年数の経過とともに計上が終わり、ローンの利息部分も返済が進むほど減っていきます。節税効果が薄れた後の収益力と売却(出口戦略)まで含めて設計することが重要です。 -
必ず確定申告と専門家確認を
損益通算の適用には確定申告が必要です。税制は毎年改正されるため、実行前に税理士等の専門家に確認しましょう。

なお、物件購入には金融機関の融資審査があります。高年収のサラリーマンは融資条件の面で有利になりやすい層です。詳しくは『不動産投資で金融機関から融資を受けるための2つの条件』の記事でもご紹介していますので、こちらをご覧ください。
損益通算のよくある疑問Q&A
Q1. 不動産投資をすると会社にバレませんか?副業になりませんか?
A. 不動産投資は一般に「資産運用」と位置づけられ、多くの企業・官公庁で副業規定の対象外とされています(規模や就業規則によるため、念のため勤務先の規定をご確認ください)。確定申告や住民税の手続きが原因で問題になるケースはほとんどありませんが、ご不安な場合は個別にご相談ください。
Q2. 確定申告をしたことがありません。難しくないですか?
A. 初年度は物件の取得費用の整理などで手間がかかりますが、2年目以降は毎年ほぼ同じ作業の繰り返しです。当社では提携税理士のご紹介を含め、確定申告のサポート体制をご用意しています。
Q3. 節税効果はいつまで続きますか?
A. 減価償却費を計上できる期間(中古RC造の例では35年)が一つの目安ですが、効果の大きさは年々変化します。購入時に「何年目まで・いくらの効果か」をシミュレーションし、効果が薄れた後の出口まで設計しておくことが大切です。
Q4. 新築と中古、どちらが損益通算に向いていますか?
A. 一概には言えません。中古物件は簡便法により耐用年数が短くなるぶん年間の減価償却費が大きくなりやすい一方、新築は修繕リスクの低さや融資条件・資産価値の持続性に強みがあります。節税額の大小だけでなく、保有中の収支と出口まで含めた総合収支で比較することをおすすめします。
Q5. 空室になったら節税どころではないのでは?
A. そのとおりです。だからこそ本記事では「節税だけを目的にしない」ことを強調しています。単独世帯が増え続ける都市部のエリアの物件を選び、入居者募集に強い管理会社と組むことが、損益通算の大前提になります。
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まとめ
- 課税所得900万円超の限界税率は約43.7%、1,800万円超なら約50.8%。高所得サラリーマンほど「所得の圧縮」の価値が大きい
- 損益通算は、不動産所得の赤字を給与所得と相殺して課税所得を減らせる所得税法上の仕組み
- カギは減価償却費。実際のお金が出ていかない「会計上の赤字」で、手元キャッシュフローは黒字のまま税負担を軽減できる
- 会計上100万円の赤字なら、限界税率43.7%の人で約43.7万円、50.8%の人で約50.8万円の税負担軽減(概算)
- 土地の借入金利子は通算対象外など、注意点も必ず確認する
- 節税は副次的メリット。単独世帯が増える都市部のエリアの「空室にならない物件」選びが大前提
- 実行前には必ず税理士等の専門家に確認を


